テレビでバラエティ番組を見ていると、出演者以外の笑い声がどこからともなく流れてきます。私もつい釣られて笑ってしまいます。この笑いは専門家の間では「録音笑い」というそうです。この録音笑いを使用すると、笑いの回数が多くなり時間も長くなることが幾つかの実験で明らかにされているのです。
何故そうなるのかというと、「社会的証明の原理」が働くからです。
この原理は、「私達は他人が何を正しいと考えているかに基づいて物事が正しいかどうかを判断する」というものです。
何が面白いのかわからないけれど、他の人が笑っているから多分面白いところなのだろうと自然に判断して、思わず笑ってしまうのです。こういうとバカみたいですが、実は合理的な行動でもあるのです。何故なら、自分で判断ができない場合は、他人の多くがする行動を真似た方が正しい確率が高いからです。ただし、確率が高いというだけで必ず正しいというわけではありません。
この「録音笑い」という手法はアメリカのテレビ業界からの輸入なのですが、日本人には特に有効なようですね。
この「社会的証明の原理」は、よく観察すると色々なところで利用されています。
例えば、外国映画の宣伝文句では、とにかく「全米No.1」というフレーズが多いですね。こっちとしても、最もよく観られているなら面白い映画に違いないと判断してしまうのです。
また、行列のできるデパ地下の惣菜コーナーやラーメン屋もそうです。一度、行列ができるとドンドン長くなるそうです。実際、行列ができやすいように、あえて座席数を少なめにするラーメン屋もあります。また、新規開店時のラーメン屋などでは、サクラを使って客を誘引することもあるそうです。
さて、この「社会的証明の原理」ですが、自分と似ている人の行動を見たときに特に強く作用する傾向があります。どう振舞うべきか判断するとき、自分と共通点の多い他人の行動を最も参考にするのです。これも理屈にあっています。人により判断が違う場合でも、自分に類似した人の正しい判断は自分にとっても正しい判断である確率が高いからです。その結果、私たちは、自分と異なる人よりも、自分と似ている人の行動に影響されやすくなるのです。
テレビのコマーシャルなどで、普通の人(のようにみえる人)が商品を愛用していることを宣伝するものがはやっていますが、これもこの傾向を利用したものなのです。
ある有名なセールスコンサルタントによれば、自分で何を買うかを決められる人は全体のわずか5%、残りの95%は他人のやり方も真似する人たちだそうです。ですから、購買の判断は、営業マンの必死な説明より他人の行動に左右されるのです。雑誌などの宣伝をみると「全国から続々と届く、驚きと喜びの声」が多く紹介されていますが、この傾向を利用したものなのです。
社会的証明の原理、使い方によっては、非常に有用な原理です。使っても使われないようにしましょう。